
現代人は、大量のエネルギーを消費しながら生活している。
資源の多量消費で発展してきた20世紀に対し、21世紀は環境という制約のもとで成長を維持すべき時代だといわれているが、地球温暖化や資源枯渇化と引き換えに手に入れた利便性を放棄するのは、実のところ容易ではない。
そうした問題に一条の光明をもたらす技術がある。NTT環境エネルギー研究所・エネルギーシステムプロジェクト・エネルギー蓄積変換システムグループの鳥海陽平が研究を進めている「歩行発電」だ。
「その名の通り、歩くだけで発電するシステムです。人間は歩いている時、電力に換算すると約10Wのエネルギーを捨てながら歩いています。一方、たとえば最近の携帯電話の消費電力は、最大でも2.5Wぐらいです。そこで考えたのが、歩く時の運動エネルギーを電気エネルギーに変換するシステムというわけです」
そもそも鳥海がこの研究に取り組むようになったのは、入社1年目に与えられたテーマがきっかけだった。
「次世代の携帯機器向けの電源を作るというグループのミッションに関わることであればどんな研究でもいいといわれて半年間、いろいろな可能性を検討しました。その結果、発生するエネルギーの大きさを考えると、歩いている時に靴が吸収している衝撃を利用したシステムが最適だという結論にいたったのです」
鳥海の歩行発電は、簡単にいえば水の入ったタンクを足で踏むことで水流を発生させ、その圧力でタービンと発電機を回して電力を発生させるシステムである。現在の試作品ではタービンや発電機などが表に出ているが、最終的にはすべての装置が靴底に収納されることになる。
「高効率な発電を行うためのキーデバイスはタービンです。ところが、靴に装着できるぐらいの小型のタービンを作っているメーカーはどこにもなく、まずは試作を依頼できる先を探すのに苦労しました。また、小型のタービンで出力を上げようとすると摩擦損失など、さまざまな損失の影響が大きくなりますので、構造設計に独自のアイデアを盛り込み、改良を重ねながら1つひとつハードルを越えてきました」

現在のシステムは、3回目の試作となるタービンを使って平均出力1.2Wと、携帯音楽プレーヤーなら楽に動かせる性能を実現している。
「技術のポイントは、タービンを使うことによって装着性と高出力を同時に満足させる点にあります。目標としているのは平均出力2.5W、エネルギー変換効率25%で、現在の変換効率は15%程度ですから、もっと向上させる必要があります。また、タービンや発電機の耐久性向上や小型軽量化も進めていかなければなりません」
そう語る鳥海が実用化の時期として想定しているのは、ずばり3年後だという。
「その頃には本格的なユビキタス時代に突入して、いまよりも長く連続して使える電池へのニーズが飛躍的に高まっているはずです。ライバルとして考えられるのはマイクロ燃料電池などですが、歩行発電にはクリーンなエネルギーで、しかもメタノールなどの燃料を必要としないというアドバンテージがあります」
大学院では量子デバイスを研究。歩行発電の研究に必要な流体力学や機械工学、電気・電子工学についての知識は入社後、一から勉強して身につけてきた。
「最も大変だったのは、これまでにない高効率の小型タービンを作り出すという点です。でも、もともとものづくりが好きなので苦には感じませんでした。いずれは発生した電力をワイヤレスで取り出そうと考えていまして、現在は歩行発電の研究と並行して先行研究の調査も行っているところです」
実用化に向けてはタービンや発電機のブラッシュアップをはじめ、歩行特性に合わせた回転数・流量・重量などの最適化、さらには靴としての安全性やファッション性の検討など、クリアすべき課題がまだ多く残されている。
とはいえ、流体が衝撃吸収の役割を果たすなど、見れば見るほどよく考えられたシステムであるのも確か。第一、歩くだけで発電できる靴があれば、歩行という行為そのものがぐっと楽しくなり、これまで以上に長い距離を歩きたくなるのは間違いない。
無意識のうちにエコロジーに貢献できる上、ダイエット効果も期待できる。鳥海の歩行発電は、まさに一石二鳥のオイシイ技術である。
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| 鳥海 陽平 Yohei Toriumi (電伝効使) |
| NTT環境エネルギー研究所 エネルギーシステムプロジェクト エネルギー蓄積変換システムグループ |
| 2005年入社 |
| NTTへは「大局的な視点から見て将来の社会のためになるようなことをやりたくて」入社した。趣味はテニスと電子工作。テニスはかつて大学内のオープンで優勝したほどの腕前で、愛車のスポーツクーペには入社後に自ら製作した燃費計が搭載されている。 |